俳句の作り方 梅の俳句

勇気こそ地の塩なれや梅真白  中村草田男(なかむらくさたお)

「梅」が春の季語。

俳句で梅といえば白梅をさします。

紅梅はべつに季語として存在します。

「こそ」「なれ」で係り結びを作り、「勇気」を強調しています。

「こそ」とくれば已然形で結びます。

なりの已然形は「なれ」です。

また、「や」でなり(断定)を強めています。

「塩」の白さと「梅」の真白さを響きあわせています。

 

 

勇気こそ地の塩なれや梅真白  中村草田男(なかむらくさたお)

『ハンディ版オールカラーよくわかる俳句歳時記』

石寒太(いしかんた)編著より引用します。

「『地の塩』とは神を信じる者は、食物が腐るのを防ぐ塩のように、

社会・人心の腐敗をとどめなければならない、

とのキリストの教えからきた言葉です。」

 

勇気こそ地の塩なれや梅真白  中村草田男(なかむらくさたお)

この句は、第二次世界大戦中の日本の敗色濃い1944年に作られました。

中村草田男(なかむらくさたお)43歳の作品です。

学徒動員で学校を去っていく教え子を前にして、

ただ黙って黒板に書き示しました。

教え子は死に直面しています。

死ぬかもしれないという恐怖で頭がいっぱいです。

そんな恐れが、生徒にまんえんせぬよう、

教師として勇気を奮い立たせるように教えさとしたのです。

恐怖に対抗できるのは勇気しかありません。

戦時下の日本で、教え子に教師ができること、

それは、勇気こそ必要だと教えることだったのです。

 

 

話は変わります。

アウシュビッツで心優しいユダヤ人ができることは、

人々を温かい言葉でなぐさめ穏やかにさせて、

殺人ガス室を恐れぬようにすることでした。

暴動を未然に防いでガス室に誘導しました。

ドイツ軍に重宝されたこのユダヤ人は、

後に裏切者として激しく非難されました。

でも考えてみてください。

極限の状況で人ができる唯一の行動は、

死の恐怖を緩和してそれが伝染せぬようにすること以外ありません。

 

勇気こそ地の塩なれや梅真白  中村草田男(なかむらくさたお)

彼もこの句を黒板に書き示して

「食物が腐るのを防ぐ塩のように、

社会・人心の腐敗をとどめなければならない。」と教示したのです。

キリストの教えでは「腐敗」ですが、彼は恐怖のまんえんであると解釈しました。

勇気こそ地の塩なれや梅真白

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