俳句の作り方 衣被の俳句
今生のいまが倖せ衣被 鈴木真砂女すずきまさじょ
こんじょうの いまがしあわせ きぬかつぎ
衣被が秋の季語。
「小ぶりの里芋を皮のまま茹でて、塩味で食べるもの。
衣を脱ぐようにつるりと皮が剥ける。」
(角川書店編 俳句歳時記 秋より)
この句のご説明をします。
まず、真砂女の生涯からお話すれば、より一層鑑賞が深まります。
1906年生まれ。2003年没。
千葉鴨川の老舗旅館の三女として生まれます。
祖母や継母に溺愛されて育ちます。
22歳で恋愛結婚しますが、夫が借金を作り蒸発します。
それを機会に実家に戻ります。
28歳の時長姉が急死します。
旅館を継ぐため長姉の夫と再婚します。
ところが30歳の時、宿泊客の7歳年下の妻帯者と恋に落ちます。
そして出征する恋人を追って出奔します。
その後家に帰りますが、夫婦仲は冷え切ってしまいます。
いっぽう彼との恋は続いていきます。
50歳の時離婚します。
同年、銀座に「卯波」という小料理屋を開店します。
そこには小説家の丹羽文雄などに交じって、
恋人がカウンターで盃を傾けていました。
女将として俳人として生きていく真砂女。
波瀾万丈の半生で、小料理屋の女将として
衣被を作っている時が至福の時でありました。
里芋を茹でていると今まで生きていた中で一番幸福を感じる。
そんな真砂女でした。
今生のいまが倖せ衣被
真砂女は他にこんな句も作っています。
羅や人悲します恋をして
うすものや ひとかなします こいをして
羅が夏の季語。絡み織を用いた目の粗い絹織物の一種
羅や人悲します恋をして
この時代に一人の女性として、自分に忠実に凛と立って生きるのは大変だったと思います。
鈴木真砂女の俳句も素晴らしいですが、一人の女性としての生き方そのものが、素晴らしい俳句になっていると思います。
私の好きな小説家の一人、坂口安吾の生き様も一冊の小説だと思います。
10年ぐらい前に 「堕ちるとは生きる事なり安吾の忌」という俳句で特選を頂いた事があります。