俳句の作り方 秋桜の俳句
秋桜身投げするごと吹かれをり 伊庭直子いばなおこ
あきざくら みなげするごと ふかれおり
秋桜が秋の季語。
コスモスの子季語。
明治時代に日本へ渡来。
秋桜が川岸にいっぱい咲いています。
強風です。
そのなかの一株をじっと観察していると川へ何度も倒れそうになっています。
ほんの少し倒れたり大きく倒れたり・・・。
それを繰り返しています。
身投げする人はためらいの為に何回も水を覗きこんで
なかなか飛び込まないと聞いています。
まるで秋桜が身投げするかのようです。
強風になぶられて何度も倒れる秋桜の哀れを表現しました。
秋桜身投げするごと吹かれをり
コスモスの俳句には優れたものがあります。
大島民郎おおしまたみろう(1921年生、2007年没)の句をご紹介します。
コスモスや子がくちずさむ中也の詩
コスモスや こがくちずさむ ちゅうやのし
子の成長を父親が頼もしく思っています。
ああ、中原中也の詩をそらんじるようになったのか・・・。
コスモスが子の成長を祝福しているかのようです。
この句の「中也の詩」とは「汚れつちまつた悲しみに」ではないでしようか。
教科書でもおなじみですが、4行4節からなる詩の
第一節をご紹介しましょう。
汚れっちまった悲しみに
今日も小雪の降りかかる
汚れっちまった悲しみに
今日も風さえ吹きすぎる
(この詩には曲がつけられNHKの「にほんごであそぼ」で歌われました。
ところで中也の悲しみというのは失恋の痛手です。
同棲していた女性が親友のもとへ走った哀しみです。
また長男を4歳で亡くしました。
その時精神が不安定になり療養所に入ったこともあります。
酒乱でしたが、生前詩集を2集刊行しました。
コスモスや子がくちずさむ中也の詩
秋桜身投げするごと吹かれをり
いい句だと思います。俳句は省略の文学といわれています。17音しかないので、当然といえば当然ですが。この句には秋桜の咲いている場所と風の状態がうまく省略されて、いい句になっています。身投げ出来る場所は、海岸、山の崖、マンションなど、いろいろありますが、私の記憶に従えば、やはり秋桜が群れをなして咲いている川岸です。川のほうが詩になります。身投げとの取り合せで、今まで誰も詠んだことの無い秋桜を、見事に表現させました。秋桜は風がつきものですが、身投げするごとで、この時の風の様子が見えてきます。見事です。秋桜の季語を選んだのは、それなりの理由があると思います。余計なことですが、私は、「コスモスの身投げするごと吹かれをり」が好みです。
秋桜身投げするごと吹かれをり 良い句ですねぇ。痛いほど胸に響きました。川に向かって吹かれている秋桜を見て、その情景を作者は
身投げと捉えた。 その感性の鋭さに感服致します。 見事です。
秋桜身投げするごと吹かれをり
私は季語としては、コスモスが好みと書きましたが、この句においては、秋桜のほうが身投げの言葉に合っているような気がします。なぜならば、秋には悲哀の感触があり、桜には死の匂いがする時があるからです。そう考えると秋桜がぴったりかなとふと思いました。
この秋桜は、群れから離れて、ひとりポツンと寂しく咲いているのでしょう。