俳句の作り方 春立つの俳句
春立ちぬ手のひらは寂しきかたち 伊庭直子いばなおこ
はるたちぬ てのひらは さびしきかたち
5・5・7の俳句です。
この句は2022年4月号の『河』に掲載されました。
春立つが春の季語。
「万物が生命の息吹に溢れる春の始まりの日は
他の季節にも増して待ち遠しいものです。
まだ寒さの中ですが暦の上では春、気温も少しずつ上がり始めます。
立春は二十四節気の一つで新暦では2月4日頃にあたります。
旧暦では新年と立春は時を同じくすることが多いです。
貝原好古かいばらよしふるの『日本歳時記』から引用します。
『元日は正月の日の始(し)なり。立春は正月の気の始なり』
立春を題として詠まれたと思われる最も古い歌があります。
『ひさかたの天の香具山かぐやまこの夕ゆうべ霞かすみたなびく春立つらしも』
柿本人麻呂かきのもとひとまろ」
(俳句歳時記 石寒太編著 ナツメ社)
春立ちぬ手のひらは寂しきかたち
この句はバンクシーの絵に触発されて作りました。
口を黒い布で覆ったテロリストが、手榴弾ではなく花束を投げようとしています。
有名な絵なのでご存じの方も多いと思います。
春の気配がうっすらと漂う頃、その絵を観ました。
私はこう思いました。
花束を握る手のひらはきっと寂しいかたちをしているのではないか。
春が始まったのに戦争が止まない現実は寂しいものです。
これを描いたバンクシーの心はきっと寂しさでいっぱいだったでしょう。
そして平和を希求する気持ちに溢れていたにちがいありません。
春立ちぬ手のひらは寂しきかたち