俳句の作り方 麦秋の俳句
麦秋の中なるが悲し聖廃墟 水原秋櫻子ミズハラシュウオウシ
「麦秋」が初夏の季語。
麦の穂は5月から6月にかけて実り、見渡す限り黄金色に輝きます。
秋というのは刈り入れをする時期だからです。
そんな黄金色の麦畑の中に、長崎の崩壊した浦上天主堂があるのです。
作者、水原秋櫻子は深い悲しみに沈んでいます。
麦秋の中なるが悲し聖廃墟
原爆投下時、浦上天主堂には司祭や信者がいました。
しかし、爆風で一部の外壁を残すだけの惨状となり、
司祭や信者は亡くなりました。
麦の穂が黄金色に輝いているからこそいっそう悲しい。
麦秋の中なるが悲し聖廃墟
長崎に原爆が落とされたのが1945年、昭和20年。
この句を詠んだのが1952年、昭和27年。
7年を経ても浦上天主堂は崩れたままの姿でした。
麦秋の中なるが悲し聖廃墟
さてここで、水原秋櫻子ミズハラシュウオウシの軌跡を紹介します。
1892年明治25年生まれ。
1981年昭和56年没。
享年89歳。医師、男性俳人。
最初、高浜虚子に師事しました。
しかし、高浜虚子の提唱する客観写生に不満を抱くようになりました。
なぜなら、秋櫻子は短歌を学んでいたからです。
つまり、主観的抒情を理念とする俳句こそ最上である、と考えたのです。
考えを論文にして発表しました。
発表と同時に高浜虚子の『ホトトギス』誌を離れました。
それからは、反ホトトギスの旗手として新興俳句運動をおこしました。
秋櫻子のほかの俳句を紹介します。
滝落ちて群青世界とどろけり
「滝」が夏の季語。
滝は年中ありますが、涼しさを呼ぶので夏の季語です。
この滝は和歌山県の那智の滝です。
神聖な御神体です。
秋櫻子は自然の荘厳に胸打たれて詠みました。
句意を申し上げます。
滝が豪快に落ちている。
滝周辺の森、すなわち群青世界に水音がものすごいなあ。
滝落ちて群青世界とどろけり
水原秋櫻子と云う名前は知っていましたが、その俳句までは知りませんでした。
有難う御座いました。
何方かと言うと、「滝落ちて群青世界とどろけり」の方が私は好きです。