俳句の作り方 龍の玉の俳句
夫の掌を握れば薄し龍の玉 伊庭直子いばなおこ
つまのてを にぎればうすし りゅうのたま
この句は2023年令和5年、ネット公募のHAIKU日本で
準特選を獲得しました。
龍の玉が冬の季語。
「ユリ科の常緑多年草である竜の髭の実。
冬になると瑠璃色に色づく。
線形の叢生する葉の深い緑が美しいことから
植込みのあしらいに植えたりするが
冬枯れの庭の彩となる実が珍重される。」
(俳句歳時記 冬 角川書店編)
句意を申し上げます。
病気の夫が寝たきりになりました。
励まそうと掌を握りました。
その時ハッとしたのです。
あまりにも薄かったので。
さて、下五の季語を何にしようか?
そうだ、涙を連想させる龍の玉がいい!
夫の掌を握れば薄し龍の玉
ここにHAIKU日本の選者、鎌田俊氏の句評をご紹介します。
「『龍の玉』は常緑の多年草『ジャノヒゲ』の実の事。
細長い葉が蛇や龍の髭に見えることから付いた名です。
冬と共に実が熟して瑠璃色の光沢のある玉となります。
地面を覆って茂る葉に隠れるように実を付ける「龍の玉」の瑠璃色は
まるで涙のようです。
薄く感じられた夫の掌の感覚が伝わってきて「握れば薄し」の措辞が
何とも悲しみを引き寄せる一句。
夫への愛情が深く感じられます。」
夫の掌を握れば薄し龍の玉
竜の玉の有名俳句をご紹介します。
少年のゆめ老年の夢竜の玉 森澄雄もりすみお
筆者はこの句を一読して少年のゆめと老年の夢は違うものだと思いました。
しかし、味読してみて間違っていることに気づきました。
少年のゆめと老年の夢は同じものなのです。
ご説明いたします。
竜の玉はこの世のものとは思えないほど美しい瑠璃色をしています。
その色への憧れが「ゆめ」であり「夢」なのです。
人間が本質的に持っている美への憧れ。
言い換えれば芸術への探求心。
それが少年のゆめであり老年の夢なのです。
少年のゆめ老年の夢竜の玉
森澄雄 1919年生まれ2010年没。
長崎県出身。
実父の手ほどきをうけ作句を始める。
「人間探求派」加藤楸邨かとうしゅうそんに師事。
日常生活の哀歓を句材とする。
加藤楸邨の主宰誌「寒雷」の編集に携わる。
また、読売俳壇の選者を37年間務めた。
少年のゆめ老年の夢竜の玉