俳句の作り方 無季の俳句
「烏宙論」あくがれば遠し荒野道 伊庭直子いばなおこ
うちゅうろん あくがればとおし あれのみち
この句は2022年2月号の『河』に掲載されました。
無季俳句です。
無季俳句とは季語を使っていない俳句です。
荒野道は季語ではありません。
枯葉道なら季語です。
季語の力の応援がない分覚悟して作句しました。
また、あくがるはあこがれるの文語的表現です。
「烏宙論」は河原枇杷男かわはらびわおの第一句集です。
河原枇杷男について・・・。
1930年、兵庫県宝塚市に生まれる。
24歳の時、永田耕衣ながたこういに入門。
「琴座」同人。
数々の賞を受賞。
「烏宙論」の中から厳選2句をご紹介します。
野菊まで行くに四五人斃れけり
のぎくまで いくにしごにん たおれけり
野菊が秋の季語。
私は自由に解釈して反戦俳句であると捉えました。
野菊は平和の象徴。
野菊を求めて大勢の人が死んでいったのです。
野菊まで行くに四五人斃れけり
或る闇は蟲の形をしてけり哭けり
あるやみは むしのかたちを してなけり
蟲が秋の季語。
たくさん存在する闇の中の一つが或る闇です。
この闇は作者自身であり巨大な虫の形をして慟哭しているのです。
生きることの哀しみを感じます。
或る闇は蟲の形をして哭けり
「烏宙論』のどこに惹かれたのかと申しますと
第一に写実句でなく心を精神を詠んでいる点です。
しかも幻想的で深い。
私は深くて幻想的な俳句が好きなのです。
そんな俳句を目指しています。
まさに「烏宙論」は私の憧れです。
しかし、究極の俳句に到達するには遠いし困難な荒野道です。
そのような心情を詠んだのが
「烏宙論」あくがれば遠し荒野道 です。
伊庭さんは明確に目指すべき句の到達点があるのですね。僕にはそういう到達点はありませんが、何時も思い出す句が3点あります。
1つは角川春樹氏の「何処より来たるいのちや蝉時雨」と鎌田俊氏の「たましひを山に返して胡桃泣く」それに堀本祐樹氏の
「永遠に己を目指すヨットかな」の3つです。
何故か、その三つはふと思います。
深くて幻想的な句を目指すという伊庭さんの思い大切にして下さいね。
角川俳句大歳時記をのぞいていると、河原枇杷男の例句がありました。
囀やさへづりながら近づく死
いい句ですね。