俳句の作り方 朧月の俳句
この自転車あの世から来て朧月 伊庭直子いばなおこ
このじてんしゃ あのよからきて おぼろづき
この句は2021年6月号の『河』に掲載されました。
朧月が春の季語。
「朧に霞んだ春の月で薄絹に隔てられたような柔らかさを感じさせる。
朧夜は朧月夜を略した語。
『新古今和歌集』の〈照りもせず曇りもはてぬ春の夜のおぼろ月夜にしくものぞなき
大江千里〉のように、古歌にもしばしば詠まれてきた。」
(俳句歳時記 春 角川書店編)
句意を申し上げます。
駐輪場に多くの自転車が見えます。
その中で、私の自転車はまるであの世から来たかのように感じられます。
朧月がなんと美しいことでしょうか。
私の自転車は時空を超越してここにやって来て静止しています。
静寂が辺りを包んでいます。
その静けさの中に朧月が浮かんでいます。
朧月があまりにも美しかったので、単なる乗り物とは思えなかったのです。
何かメッセージを伝えに来たかのように思われました。
あの世から来たというのは私の幻想です。
しかしそんな幻想を抱かせるほど朧月が美しかったのです。
この自転車あの世から来て朧月
朧月を用いた著名俳人の句をご紹介します。
おぼろ月自分のゐない鏡見し 熊川暁子くまがわあきこ
この句を読んだとき少し怖かったです。
ふと姿見を見ると自分が映っていない。
こんな恐ろしいことがあるでしょうか?
作者の幻想だと言ってしまえばそれまでですが、
存在の不確かさを考えさせる一句です。
おぼろ月自分のゐない鏡見し
この自転車あの世から来て朧月 いい句ですよねぇ。
1つの句として見事に立っていると思います。 私の批評など必要ありません。