俳句の作り方 夏の暁の俳句

 棘ひとつ寂とこぼるる夏の暁  伊庭直子いばなおこ

とげひとつ せきとこぼるる なつのあかつき

 この句は2021年9月号の『河』に掲載されました。

 こぼるるは零れると毀れるの二つの解釈があります。

この句では毀れる、つまり欠け損じるの意です。

 夏の暁が夏の季語。

「夏の夜は短く、東の空ははやばやと白みかける。

暁のひんやりした空気に清涼感を覚える。」

(俳句歳時記 夏 角川書店編)

 暁とは太陽の昇る前のほの暗いころ。

古くは夜半から夜の明けるまでの時刻の推移を

あかつき、しののめ、あけぼのと区分した。

あかつきは夜深い刻限をさして用いられた。

 

 

 零れると解釈すると・・・。

寂しくなって心に刺さった棘がひとつちらりと見えたことになります。

過去に被った数々の心の痛手。

ほの暗い夏の暁に、ひとつひっそりと寂しく姿を見せたのです。

棘ひとつ寂とこぼるる夏の暁

 

 

 毀れると解釈すると・・・。

浮世の諍いで、相手の言葉が棘となって心に刺さりました。

そのせいで夜になってもなかなか寝付けません。

仕方なく心に棘が刺さったまま眠りました。

目が覚めた時はまだ外は仄暗い。

窓を全開しました。

涼しい風が部屋に流れてきます。

さて、昨日の出来事を作句しようと思いました。

机に向かいましたがなかなか575にまとまりません。

ぼーっとして涼風にあたっています。

あたりはひっそりとしています。

ときたま鳥の声がするばかり。

だんだん寂しくなってきました。

すると心にささった棘が、ひっそりと寂しく欠け損じたのです。

棘ひとつ寂とこぼるる夏の暁

    俳句の作り方 夏の暁の俳句” に対して1件のコメントがあります。

  1. 大谷元秀 より:

    相手の言葉が棘となる。 人間として生きとし生ける限り、大小の差はあれど、誰にでも感じる棘なんでしょうね。
    感性の豊かな人ほどその棘に傷つきやすいのかとも思います。
    伊庭さんの掲句は感性の豊かな傷つきやすい人の気持ちを代弁しています。
    私も共触れ致しました。 棘ひとつ寂とこぼるるの措辞が素晴しいです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です