俳句の作り方  鯨の俳句

     鯨の尾祈りのかたちして沈む  仲寒蟬なかかんせん

    くじらのお いのりのかたちして しずむ

 

 

     鯨が冬の季語。

    「抹香鯨まっこうくじら は十数メートルで

    腸内の結石から竜ぜん香と称する貴重な香料を採取する。

    また、勇魚いさな は鯨の異称。」

    (俳句歳時記 冬 角川書店編)

 

 

     鯨の尾祈りのかたちして沈む

    どう見ても鯨の尾は人の祈る両手には見えません。

    なぜ「祈るかたちして」と詠んだのでしょう?

    その理由を解説します。

 

 

     私(作者)は海面に目をこらしています。

    鯨が一頭、海面近く泳いできて潮を吹きました。

    巨大な体からの潮吹き。

    自然の雄大さに私は感服しました。

    そして圧倒されたのです。

    潮を吹き終えて海底深くもどるとき、尾ひれが海上に一瞬見えました。

    (この句は鯨が潮吹きをした後の一瞬を切り取っています。)

     尾ひれを見た時、鯨が私にエールを送っているように感じました。

    もちろん鯨がエールを送ったりしません。

    けれども、今潮を噴き上げた鯨に私は大いなるかつ静かな勇気をもらったのです。

     私はその勇気をどう表現してよいのかすぐには分かりませんでした。

    海面は何事もなかったかのように穏やかです。

    鯨にばかり気をとられて今まで気づかなかったのですが雲の間から光がさしています。

    その光は海に達しています。

    鯨が沈んだあたりに荘厳な光が当たっているのです。

    私は言い知れぬ感動で胸がいっぱいになりました。

    鯨のエールは祈りだったのです。

    鯨が私の為に祈ったのです。

    そう思いました。

     鯨の尾祈りのかたちして沈む

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