俳句の作り方 蟬時雨せみしぐれ の俳句
蟬時雨もはや戦前かもしれぬ 攝津幸彦せっつゆきひこ
せみしぐれ もはやせんぜん かもしれぬ
蟬時雨が夏の季語。
「初夏になると初蝉の声を聴く。
梅雨が明ければ一斉にいろいろな蝉の声が聞こえてくる。
ジイジイと鳴く油蝉。
ミーンミーンと鳴くミンミン蝉。
シャーシャーと鳴く熊蝉。
ニイニイと鳴くニイニイ蝉。
蝉の降るような声を蝉時雨という。
日中の声は暑苦しいが、朝夕聞く声は涼しい。
唖蝉おしぜみ は鳴かない雌の蝉の事である。」
(俳句歳時記 夏 角川書店編)
蟬時雨もはや戦前かもしれぬ
蟬時雨もはや戦前かもしれぬ
この「もはや」、厄介です。
筆者は苦戦しました。
というのも「もはや」には2つの意味があるからです。
① 早くも、まさに
② 今となっては、もう
しかし、①②どちらの意味にもとれる掲句の「もはや」。
筆者は②を選択しました。
従って句意は、この蝉時雨もう戦前かもしれない、となります。
さて作者はなぜ戦前だと思ったのでしょう?
攝津幸彦は1947生まれです。
終戦は1945年ですから戦後生まれです。
では何故戦前かもしれないと思ったのでしょう。
作者の声を聴いてみましょう。
日本は世界戦争に巻き込まれるかもしれない。
また兵士が死んで、我々は飢える。
未来は平和なんかじゃない。
戦争かもしれないのだ。
だから今は戦前かもしれないのだ。
そう考えると私は不安でたまらない。
蝉時雨がいっそう不安をかき立てる。
蟬時雨もはや戦前かもしれぬ