俳句の作り方     冴え返るの俳句

     冴え返るとは取り落すものの音    石田勝彦いしだかつひこ

    さえかえるとは とりおとす もののおと

 

 

     冴え返るが春の季語。

    「立春を過ぎ暖かくなりかけたころに寒さが戻ることを言う。

    再びの寒気で心身の澄み渡るような感覚が呼び覚まされる。

    冬の寒気が透徹した状態を『冴ゆ』、それが再び返るのが『冴え返る』である。」

     (俳句歳時記 春 角川書店編)

     冴え返るとは取り落すものの音

 

 

     冴え返るとは取り落すものの音

 

 

     句意を申し上げます。

    寒さがぶり返すということは、うっかり物を取り落としたときの音であります。

 

 

     鑑賞してみましょう。

    いつもの散歩に出ようとして、戸締りをするためポケットに手を入れて鍵を取り出そうとしました。

    その時背中をかすめるように冷たい風が吹きました。

    立春が過ぎて気が緩んでいたせいか、急な冷たさに肩がすくみました。

    すると脇に挟んでいた俳句手帳が、小さな動きに反応してするりと滑り落ちたのです。

    乾いた音が玄関先の静けさをやぶりました。

    冴え返る空気の中で、その音だけがやけにクッキリと耳に残りました。

     見上げると淡い青がかすかに空の一角に見えています。

    まるで落としたものの音が、世界の微細な音を呼び覚ますように感じたことです。

     冴え返るとは取り落すものの音

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