俳句の作り方     汗の俳句

     美しきものにも汗の引くおもひ    後藤比奈夫ごとうひなお

    うつくしき ものにもあせの ひくおもい

 

 

     汗が夏の季語。

    「夏はじっと動かずにいても汗がにじむ。

    運動や労働の後にしたたる大粒の汗を『玉の汗』という。」

     (俳句歳時記 夏 角川書店編)

     美しきものにも汗の引くおもひ

 

 

     句意を申し上げます。

    美しいものは安心や憧れの対象であるはずなのに、

    それに触れた瞬間、汗が引くほどの"ざわめき"や"畏れ"を感じる事ですよ。

 

 

     美しきものにも汗の引くおもひ

 

 

     鑑賞してみましょう。

    どれほど美しいものを前にしても、私(後藤比奈夫)の胸の奥では

    ふっと震えるような不安や緊張が立ち上がってしまうのです。

    美しさがまっすぐに喜びに向かわず、むしろ身がすくむような感情にとらわれます。

     白牡丹はくぼたん(夏の季語)の花びらに朝のひかりが触れた時、その気高さにいつも言葉を失います。

    ただ美しいだけでなくどこか近寄りがたいのです。

    胸の奥がそっと冷えるのです。

     咲ききった深い白を見つめていると、美とは安らぎよりもむしろ畏れをよぶものだと知ります。

    汗がすっと引くようなあのかすかな震え。

    それは私にとって、長く俳句を支えてきた感情でもあります。

     白牡丹の前で立ち止まった瞬間、花の美しさが私の内側の翳かげを照らし出します。

    逃げずに見つめ続けるとそこに句が生まれます。

    句は私の生の変遷です。

     美しきものにも汗の引くおもひ

    

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