俳句の作り方 薔薇の芽の俳句
悩ましき背中に生ふる薔薇の芽よ 伊庭直子いばなおこ
なやましき せなかにおうる ばらのめよ
この句は2021年6月号の『河』に掲載されました。
薔薇の芽が春の季語。
ちなみに薔薇は夏の季語。
「薔薇は3月になると芽が目立ち始め
赤みを帯びたものなどがほぐれていく様子は生命感にあふれている。」
(俳句歳時記 春 角川書店編)
この句は一物仕立イチモツジタテです。
一句の中に切れがなく上五から下五まで一気に詠み流す作り方です。
一句一章の俳句とも言います。
切れのある俳句とは、例えば先週ご紹介した句です。
巻貝のおくのわたくし春三日月
「わたくし」で切れています。
このような句を切れのある俳句と言います。
言い換えると二句一章の俳句とも言います。
また取り合わせとも呼び、例句では巻貝と春三日月が取り合わされています。
句意を申し上げます。
引用にもある通り、薔薇の芽は生命力に躍動しています。
そんな薔薇の芽が背中に生えました。
悩ましい。
なぜなら心は憂鬱、体は不調だからです。
座って背もたれに背中を休めたり、仰向けに寝て休むこともできないのです。
気持ちを整えてゆっくりすればよいのではないかとも思うのですが、それもままなりません。
実に悩ましい。
憂鬱なのにどこか心が落ち着かないのです。
春という気候のせいなのでしょうか?
寒さから解放されたのにどういうことなのでしょうか?
ああ春は悩ましい。
そんな気持ちを薔薇の芽に託しました。
悩ましき背中に生ふる薔薇の芽よ
私も一句一章の句を作りたいと思う時が有るのですが、どうしても作為的になりがちでうまく行きません。
無理に作っても魅力的な句になるはずはないと自分でも分かってはいるのですが…
伊庭さんの句はリズムも良いし、魅力的な句になっていますね。
少し妬けます。