俳句の作り方 雲の峰の俳句

 雲の峰一人の家を一人発ち  岡本眸おかもとひとみ

くものみね ひとりのいえを ひとりたち

雲の峰が夏の季語。

 「夏の代表的な雲が『積乱雲』です。

青空に白く大きな雲が垂直にぐんぐん伸びて輝きます。

むくむく盛り上がる形から『入道雲』と言います。

山並みのように雲が並ぶその威容から雲の峰と言われています。

 雲の峰は漢詩の影響で生まれた言葉です。

陶淵明の詩に『夏雲奇峰多し』とあります。」

(よくわかる俳句歳時記 石寒太編著)

 

 

 句意を申し上げます。

ひとりぼっちの家から出て一人旅に向かおうとしたところ

青空には入道雲が見えたことですよ。

 

 

 「夫を喪って一人住まいの家から旅に出ようとしています。

その充実感と寂しさ。

ふと見上げた空に大きく立ちはだかる雲が、心の奥底にある孤独感を感じさせます。

寂寥感がこの句の眼目です。」

(よくわかる俳句歳時記 石寒太編著)

 雲の峰一人の家を一人発ち

 

 

 独りぼっちになって独り旅をしようとした時「充実感と寂しさ」を感じた作者。

寂しさは理解できるけれど充実感には違和感を持たれる方も多いと思います。

なぜ石寒太氏は充実感を作者が感じたと解説したのでしょうか?

それは死者の送りをしたからです。

つまり、丁寧に心を込めて永遠のお別れができたからなのです。

葬式が終わってぽっかり空いた心の空白。

それとは別に満足して夫を送り出したという充足感もあったはずです。

 雲の峰一人の家を一人発ち

 

 

 筆者にも経験があります。

愛犬が虹を渡りました。

私の使っているシャンプー剤で体を洗ってやりました。

泡を流して綺麗に拭きとりました。

ああ、この仔は死んでからも私を喜ばせてくれている。

この仔と15年生活を共にできて良かった。

満ち足りた気持ちが爽やかにあふれました。

岡本眸も同じ心持ちだったのです。

共感できる俳句です。

 雲の峰一人の家を一人発ち

     俳句の作り方 雲の峰の俳句” に対して1件のコメントがあります。

  1. 大谷元秀 より:

    岡本眸さんの句は、愛した夫を丁寧に心を込めて見送った家を旅立つ充実感と寂寥感を表わした良い句だと思います。
    私はこの句を詠んだ時に、もう一つの感慨がふと頭を擡げました。 例えば愛し合って夫婦になったけれど、どうしても性格の行き違い、その他の
    諸事情で離婚となって別れる二人が、それぞれ前に進む時に感じる充実感と寂寥感をふと思いました。
    それと、子供だった少年少女が大人になり独り立ちして家を巣立って行く充実感と淋しさも感じました。
    何れにしても良い句だと思いました。
    伊庭さんの御蔭でこの句を知る事が出来ました。
    感謝致します。

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