俳句の作り方 蛍袋の俳句
蛍袋に指入れて人悼みけり 能村登四郎のむらとしろう
ほたるぶくろに ゆびいれて ひといたみけり
蛍袋が夏の季語。
「山野に自生するキキョウ科の多年草。
6~7月頃に大型釣り鐘状で白または薄紫色の、内側に紫斑のある花をひらく。
この花に蛍を入れて遊んだことから名づけられたという。」
(俳句歳時記 夏 角川書店編)
蛍袋に指入れて人悼みけり
蛍袋に指入れて人悼みけり
句意を申し上げます。
蛍袋は魂の器です。
釣り鐘形の花の中は空虚です。
指を入れても何もありません。
その空に触れた瞬間、ああ、あの人はもう戻らないという哀しみが湧き出ました。
鑑賞してみましょう。
蛍袋に指を入れた時、冷たく空っぽな感触に胸がひやりとしました。
ただ花に触れただけなのに心が少しざわついたのです。
そのざわつきは何かを思い出させる前触れのようでした。
蛍袋は本来なら蛍の光を入れる器です。
でも今、私の指先が触れているのは光のない器、空洞です。
空洞に触れた瞬間、亡くなったある人の名を思い出しました。
その空洞は故人の静けさを呼び込みました。
花の奥の静けさは過ぎ去った時の深さに似ています。
私はただ指を入れただけなのに、悼む思いが自然にこみ上げました。
触れたのは花ではありませんでした。
記憶の底に触れたのでした。
蛍袋の空虚が私の中の何かをそっと照らし出したのです。
蛍袋に指入れて人悼みけり
