俳句の作り方 蓑虫の俳句
蓑虫の父よと鳴きて母もなし 高浜虚子たかはまきょし
みのむしの ちちよとなきて ははもなし
蓑虫が秋の季語。
「ミノガ科の蛾の幼虫。木の葉や小枝を糸でつづって巣を作り、その中にひそみ、
あたかも蓑をまとっているような姿をしている。
雄は成虫になると巣を離れるが、雌は成虫になっても翅がなく一生巣から離れない。
木の枝にぶら下がって揺れているさまは寂しい。
蓑虫は鳴かないが『枕草子』に「鬼の捨て子である蓑虫が「父よ父よ」と儚げに鳴く」と書かれている。」
(俳句歳時記 秋 角川書店編)
蓑虫の父よと鳴きて母もなし
蓑虫の父よと鳴きて母もなし
句意を申し上げます。
「枕草子」に書かれているように、鬼が【産んだ】子である蓑虫は「お父さん」と
悲しい声で鳴きます。
でも、お母さんもいないのです。
(広く知られている説明では、鬼が産んだ子なので鬼に【捨てられて】、父恋しと鳴く、
という後世の解釈・注釈が添えられていることがあります。)
鑑賞してみましょう。
枕草子に「蓑虫いとあはれなり。鬼の産みたりければ、父よ父よと鳴く」とあります。
蓑虫は父を恋しがって鳴く虫だと考えられていました。
その古い話を虚子は一句の中によみがえらせます。
まず読者の耳に響くのは「父よ」と言う切実な呼び声です。
しかし虚子はそれだけでは終わりませんでした。
下五に置かれたのは「母もなし」と言う意外な言葉。
父を求めて鳴いているだけでなく、母もいない存在として描かれています。
蓑虫の孤独は一気に深く大きなものとなりました。
父を呼んでも声は届けきません。
母の姿もなくただ秋の野に揺れているだけです。
小さな虫の姿に人の寂しさや哀しさが重なっているのです。
人間の孤独の真実を語る一句なのです。
蓑虫の父よと鳴きて母もなし
